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紫色の月光

紫色の月光

第十話「人間失格」

第十話「人間失格」


<メサイア基地 Sブロック>


「ほほう、こりゃあ楽しそうなモンを見つけたぜ」

 何処か弾んだ口調でマーティオが言う。怪しいモニターが一面支配しているこの空間は恐らくは何らかの管制室だろう。

「……動かせるんですか?」

「動かす。俺様が動かすと言ったら動かすのだ分ったか」

 何でこの男はこんなに偉そうなんだろうか。親の顔が見てみたい。

「ほう、世界地図か」

 何時の間にか本当に動かしていやがる。口や性格がやばいくらいひん曲がってはいるが、実力はいろんな面で評価してもいいだろう。

(これでもうちょっと性格がよければ……)

 とか何とかフェイが考えてるうちに当の本人は超がつきそうなスピードでキーボードを弄くりまくっている。
 次の瞬間、四つの画面が表示された。

「ふーん……こいつぁ」

 一人で何か勝手に納得しては頷いているマーティオ。正直、一人で納得しても何が何だか分らない。

「説明して欲しそうなツラしてるな」

 三姉妹のほうへ振り向く。頷いて返答して見ると、この史上最低の男は、

「よし、では説明しない。自分達のちぃーせぇのーみそで考えな」

 更に最低な事を言ってきやがった。正直、かなりムカつく。

「あなたと言う人は……!」

「最低だね」

 半ば怒り、半ば呆れが入り混じっている三姉妹。だが、マーティオは人を不快にさせる事をある意味では史上の喜びとしている厄介な男だ。

「でもまあ、いいだろう。超特別サービスで説明してやるから感謝するように」

 しかし、同時にマイペースでもある。ただ、あまり感謝したくないと言うのが本音だが。

「此処と同時に四つの卵が出現しただろう。この四つの画面はその卵から出てきた化物の視点だ。右上がアメリカ、右下がブラジル、左上がロシア、左下がアフリカになる」

 よく見たらブラジルとロシアの二つは既に活動を開始している。そして良く分らないが、この二つはどういうわけか大画面の世界地図を通して一つの線で繋がっていた。
 まるで一つだ、とでも言わんばかりに、だ。

「……二つの担当は確かユウヤとか言う奴とその奥さんだったな。だが、奥さんのほうは『無理させるな馬鹿ー』とか泣きながら言う馬鹿が約一名いたので俺様が増援を送っといてやったんだが」

 実はユウヤとラフィを別の所へ送り込ませたのは他ならぬこの男である。何故なら、あまりのベタベタぶりを見て、それで『つい何となく』離して見たいと考えたからだ。


 ふと見れば、ブラジルの方では槍に乗って空を飛んでいる男と、剣を持って切りかかってくる男の二人がいる。どうやらこの二人が増援らしい。

 だが、此処でフェイは思った。

 このマーティオが送った増援と言う事は、この二人もある意味では『人間失格』な連中なんだろうな、と。

「ふむ、だが困ったな」

 此処でマーティオが真剣な表情で言った。

「このままじゃ多分勝てないな、ロシアとブラジルの方」


 ○


<ブラジル>

 
 斬っては装甲を貫き、撃っては装甲をぶち抜く攻撃を次々と仕掛けているにも関わらず、竜は倒れる気配を見せない。
 何故なら、恐ろしいスピードで再生していっているからだ。それこそダメージを与えた瞬間一瞬にして、だ。

「おー、こいつぁ、参ったな」

 空飛ぶスケボーならぬ空飛ぶ槍の上でエリックが腕を組んで思考する。すると次の瞬間、彼は右手を勢いよく上げてこう叫んだ。

「作戦タァーイム!」

 そんなのを受け入れる以前に、あの機械の竜が人間の言葉を理解できるのか、と下で見ているラフィは思った。しかし、次の瞬間。

 竜がこくり、と頷いた。

 思わずコケそうになったラフィだったが、その彼女の近くにエリックと狂夜が降りて来て、何かヒソヒソ話を始めている。
 因みに、聞き耳を立ててみると、こんな内容だ。

「どうするよ。奴め全く効いてないぞ。さっきから翼を計15枚くらい切り落としても再生してるし、腹や頭にバスター砲を浴びせても再生しやがる」

 と、エリック。

「むぅ、恐らく、奴は宇宙から無限に降り注ぐゲッ○ー線を浴びて驚異的な再生能力を得たに違いない」

 と、狂夜(眼鏡なしバージョン)。好き勝手な事を言ってくれている。

「と言う事は何か。奴はインベーダーなのか?」

「いや、敢えて言うならこう、人類に代わるこの星の支配者となるつもりなのかもしれん」

 話がどんどん外れていっている。
 と、そんな時だ。

「あのー、もしかして貴方達はエリック・サーファイスさんと切咲・狂夜さんでしょうか?」

 話の内容が結構マニアックになりつつあった事もあるので、ラフィは少々遠慮がちに二人に接触してきた。

「ん? 誰だあんた?」

 まあ、今まで話した事も会った事も無い人物に話し掛けられたのだからマトモな反応と言える。

「お二人にお電話がかかってますよ」

 そう言うと彼女は携帯電話を二人に手渡した。
 もしもし、とエリックが話してみると、

『おう、貴様等。ちゃんと生きてるな』

 久々に聞くマーティオ・S・ベルセリオンの声が聞こえてきた。


 ○


<ロシア>


『今日はこの怪盗イオ様が貴様らに助け舟って奴を出してやりに来たぜ。遠慮なく感謝するがいい』

 これを聞いたユウヤは思った。
 何でこの男はこんなに偉そうなんだろうか、と。

「つーかそれ以前に何をどう助けるって言うんだおい!」

 目の前の竜は既にバスターライフルで穴だらけ。デカさなら向こうの方がドレーガよりも上だが結構楽に倒せた方だと思う。

『でもなー、残念ながらそいつは自力じゃどう足掻いても倒せないんだなコレが』

 明らかに面倒臭そうな口調でマーティオが言う。

『実はそいつな、ブラジルとロシアの機械竜は二つで一つなんだよ。つまり、何度ぶった切ろうが穴あけようが原子レベルに分解しようが塵一つなく消滅させようが魔人ブウみたく吸収しようが太陽に突っ込んで自爆しようが――――』

 次の瞬間、その言葉を裏づけするかのように穴だらけの竜が新品の電化製品の様な輝きを見せつつ再生した。

『蘇るんだよ。食おうが別の世界へ送ろうが結果は同じ。その二体の竜はそういう能力なんだ』

「じゃあ、どうしろっていうんだお前」

 当然の疑問だ。
 だが、それに対してこの男は、

『自分で考えろバーカ』

 最低な一言を言ってきやがった。

 これにはユウヤもブラジルにいるエリックもキレた。

「おいこらテメェ! 何のために電話してきやがった!」

 と、ユウヤ。

『お前サイテーだぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

 と、エリック。
 
 しかし、それでもマーティオは、

『はん、なんとでも言うがいいさ……と、本来なら言う所だが、今回はあくまで『超』がつく特別サービス。大出血で教えてしんぜよう』

 エリックは思い出した。マーティオってこういう男なのだ。何かと人の不幸を喜ぶ面がこの男にはある。

『……変わらなねぇなぁ……お前』

「……いつもこうなのか?」

 ロクに話した事も無い相手にユウヤは問う。

『寝ている時に鼻の穴の中に水鉄砲を突っ込まれた事がある。その後、あの野郎躊躇なく引き金引きやがった』

「………」

『ついでに、ノートパソコンに意図的にウィルスを送ってきやがった事もある。奴の手帳には気をつけろ、色んな人間の色んな弱みが書かれている。某国の政府要人Aさんが異常なほどのマザコンな事や、ラーメン屋のCさんが開発したラーメンをパクって有名になったFさんとかな』

「……そ、そうか」

 微妙な物やトンでもないネタまである。兎に角幅広い範囲だ。人それぞれというから、バラされたくないネタの宝庫なのだろう。

『あ、そーいやお前あいつに触れたか?』

 エリックが偉く真剣な声で聞いてきた。

「ん? ああ、そういえば金を受け取る時に……」

『いかん! 奴の毒牙だ。急いで身の点検、家のチェックをした方がいい!』

「へ?」

 話がまるで飲み込めない。一体何を言っているのだろうか。

『いいか、奴は握手した一瞬だけでも相手の身体の各部に盗聴機を50個仕掛けられるプロだ! 家にまで入られたんなら余計に仕掛けられてる可能性が高いぞ! しかも厄介なのは全く気付けないほど自然体で、尚且つ見つけるのが困難なほど小さいし複数仕掛けやがる!』

「何!? ら、ラフィ、今すぐ店の皆に連絡を!」

『失礼な、今回は仕掛けてないぞ』

 其処に、張本人が出てきやがった。

『今回はトイレに548ばかし盗聴機と監視カメラを仕掛けるかと思ったが、流石の俺様でも一時期だけとはいえネオンを預かった所に仕掛けはせん。あのお騒がせ娘がいれば自然と苦労するのは分るからな』

 此処でユウヤは思った。
 果たしてこいつにはモラルがあるのか、皆無なのか、と。
 恐らく、普段は皆無なのだろうが、案外奇妙な所であるのだろう。今はそう思いたい。

『安心しろ。こいつは仲間が絡んだのなら嘘はつかない。仕掛けてはいないだろうぜ』

 実際、エリックの言うとおりだった。
 このマーティオ・S・ベルセリオンと言う男は変な所で律儀なのだ。

『さて、話が明らかにズレたが、結局どうするのか。答えは一つ。同時に倒す事だ』

「同時に?」

『そうだ。『1,2の3』で同時に機械竜を塵一つ残さず消し飛ばしてやれ。そうすれば俗に言う存在の力がなくなり、奴等はどう足掻こうが復活できない。ああ、いい響きだ』

 最後あたり危険な思考が溢れているような気がする。

『おい、それ以外じゃ倒せないのか?』

 エリックが疑問を言う。

『無理だ。こちらのデータによると、以前キメラに実験で片方寄生させたらしいが、もう片方が完全に無事なので寄生がキャンセルされたんだそうだ」

 つまり、其処まで強力だと言う事だ。
 他にもデータには様々な例が書かれており、それらに対する対応として出てきた答えが『同時に倒す』であったのだ。


 ○


<メサイア基地>


 羽ばたいたと同時、巨大な虫が嫌な音を響かせながら飛んだ。

「あれじゃあインセクトクィーンだな」

 そういえば似てるな、と思う。卵を産んだりグロテスクな部分が特に。
 しかし、それでもあのデカさは反則だろうと思う。何せ、RMAのサルファーが半分の大きさも無いのだ。

「大丈夫かサルファー? やれる?」

「まだ何ともいえぬが……大きいからって勝負が決まると言う事は無いと言う事を証明するであるよ」

「そっか、じゃあ俺は遠慮なく休ませて貰うぜ」

 そう言うと、快斗が胡座をかきながら床に腰を落とした。介入する気ゼロだ。

「うむ、では行こうかネオン殿」

「……おーけー」

 無気力な声でネオンが言う。それと同時、彼女の左腕に光の弓が出現した。

「……行きます」

 思いっきり跳躍。その直後、彼女の弓矢の矛先が眩い光を放ち始めた。
 次の瞬間、その矛先から無数の光の矢が雨嵐のように虫の大群に降り注ぐ。

「―――――!!」

 断末魔の叫びをあげて虫の大群が光の矢によって次々と貫かれる。
 正直、あまりオススメできない光景だ。

 しかし、ボスの巨大虫は明らかにご立腹である。
 その大きな羽を羽ばたかせ、台風のような突風を作り出す。

「――――――!!!」

 怪獣のような雄叫びを上げながら巨大虫はそれをネオンへと叩きつける。

「……レベル4、行きます」

 しかし、その瞬間。
 巨大虫は一瞬にして、周囲をまるでダイヤモンドの様な鏡に囲まれていた。その直後、鏡が破砕。それと同時、周囲を無数の鏡の破片が虫を覆った。

「……はろー」

 その破片の一つの中にネオンの姿が映し出される。すかさず彼女は鏡の中から光の矢を放ってきた。

「―――――!?」

 この異常事態に驚きつつも巨大虫は回避運動をとろうとする。しかし、いかんせん体が大きすぎた。

 光の矢が次々と巨大な身体に突き刺さっていく。

「―――――!!!」

 痛みの叫びを巨大虫があげると、突然真下から激しい痛みが襲い掛かってきた。
 ふと見れば、其処にはあのサルファーが下から化物虫の腹を剣でぶっさしているではないか。

「……む!」

 刺した化物の腹から血液と思われる緑色の液体が流れる。だが次の瞬間、その化物の腹が勢いよく裂けた。

「何!?」

 其処から現れたのは化物の印象を更に色強く受け継いでいる虫であった。要は子供である。

「――――――!!」

 鋭い歯を剥き出しにしつつも虫は勢いよく手をサルファーの顔面に向ける。

「うお!?」

 その攻撃手段は単なるパンチであった。だが、それだけでも機動兵器であるサルファーをぶっ飛ばす威力があるのだ。馬鹿にはできない。

 サルファーは素早く剣を取ろうとしたが、其処で気付いた。自身の剣は化物の親の腹に突き刺さったままなのである。

「く―――!」

 汚い液体を口から垂らしながら化物が襲い掛かってくる。その鎧の様な体から刃が突き出てくる。これでサルファーを倒すつもりだ。

 だが次の瞬間、何処からか次々と鏡の破片が化物に突き刺さる。

「―――――!!!?」

 化物が痛みの叫びをあげると同時、今度はネオンが矢を放つ。
 その矢は光の尾を引きながらも、真っ直ぐ、確実に化物の頭部に命中した。

 だが、それだけだ。

 化物は頭に矢を受けつつも死ななかったのである。

「ええい!」
 
 それならば、とサルファーが走り出す。
 彼は巨大虫に突き刺さっている剣を引き抜くと同時、それでそのまま化物虫の胴体を真っ二つに切裂いた。





<ブラジル>


 目の前には既に30回くらい身体を消し飛ばされた竜がいる。しかし、それでもこの竜は再生していた。その理由はタダ一つ。タイミングが合ってないからだ。何度か惜しいのはあったが、それでも完璧にタイミングを合わせられない。

「だあああああああ!!! 畜生、止めだ止め! そんな1,2の3何ていうありふれたのだから上手くいかないんだ!」

 エリックが遂に壊れたようである。多分、ストレスが溜まっていたのだろう。

「奥さん、携帯貸して!」

「え? は、はい」

 タイミングを口で発表してくれていたラフィが迫力に押されつつも携帯をエリックに手渡す。
 因みに、狂夜は竜の攻撃を防ぐので手一杯の状態である。機動兵器ならまだ話は別なんだろうが、今の彼等が生身だと言う事を忘れてはいけないのだ。

「おいマーティオ! 俺に提案がある!」

『ほう、何だ?』

「タイミングを合わせる言葉を『1,2の3』から変えたい!」

 そんなのでタイミングが合うのか分らないが、気分の問題と言う事もある。そこらへんを考慮に入れてやるのもいいだろう。

『OK。で、どんな合図だ?』

「無論、『メイドさん、スク水、チャイナドレェース』だ!」

 次の瞬間、この会話を聞いていた一般良識と言う物を持つ者全員が『ずだーん』と激しい音を立てながらずっこけた。

『お前本気かこらー!』

 電話の向こうでユウヤが抗議を上げるが聞いちゃいない。エリック・サーファイスと言う男はギャルゲーユーザーでもあるのだ。しかも二次元の女の子にしか興味が無いと言う困り種である。

「特にポイントなのはチャイナドレスの部分だ。『ドレェース』と伸ばすのがポイントだぞ!」

『よし、それで行こう』

 マーティオの決定の一言にまたしても一般良識を持つ全員が派手にずっこけた。

『真面目にやれお前らー!!』

 やっぱり抗議の声を上げる者もちゃんといる。
 が、しかし。こいつ等はこれが真剣なのだ。一般常識もクソも無い。

『文句を言う暇があったら次の用意をしな。案外イケルかもしれんぞ』

『ンな馬鹿な……』

 そんなので上手くいくのなら正しくご都合主義だ。世の中理不尽だ。

「よーし行くぞユウヤ! 準備は良いな!」

『正直、今回だけにしてくれ! 恥かしい!』

 しかし、此処でエリックはこんな事を言ってきやがった。

「阿呆! そんな時はその服装で××したり×××とか××とかを想像するんだ。世の中想像力豊な奴が勝つ!」

 最後は妙に納得出来る様で出来ない。
 が、しかしあまりにもヤバい単語のため伏字まで使う状況をユウヤは一人思い描いてみた。因みに、横ではラフィが赤面している。それだけヤバイ単語だったようだ。

『…………』

 思考する事大凡5秒。
 エリックが叫んだ。

「よし、行くぞ!」

『おう、やってみるか!』

 どんな想像をしたのかは知らないが、どうやら恥かしいとは思わないようにしたようだ。恥かしいと考えたら負けてしまう感じがしたし、何より堂々とこう言う事を言うエリックを見て何か色んな事を感じたのかもしれない。
 勿論、『こいつ人間失格だろ』と言う明らかな呆れが真っ先に出てきている。

「よし、行くぞ! メイドさん、スク水、チャイナドレェェェェェェェス!!!!」

 その直後、ロシアとブラジルの二つの地方でなんと『同時』に大きな爆発が起きたと言う。

 やっぱ世の中理不尽だ。





第十一話「愚か者」


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